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普段から多くの家と向き合い、膨大なインテリアの知識をもった建築家のみなさん。そんな彼らが住んでいる家には、いったいどんなこだわりがあるのでしょうか。

住宅のディテールへのこだわりから、家のお掃除方法までインタビューしている好評企画の第4弾です。

今回は、下町の一軒家を「秘密基地」のような空間に変えてしまった建築家さんが登場します。狭小物件ながら、家の中に5メートルを超える木があったり、屋根に上がれたりとワクワクするような仕掛けがいっぱい!


本日の建築家さんは?

取材させていただいたのは「一級建築士事務所 ikmo(アイケイエムオー)」の比護 結子さんです。

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おかやまのいえ / Photographed by Masao Nishikawa

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トコヤノイエ / Photographed by Masao Nishikawa

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カウルハウス / Photographed by Masao Nishikawa

新築住宅、リノベーション物件、オフィス空間など、多岐にわたって設計されている比護さん。開放的で気持ちいい空間設計を得意としている建築家さんです。


住宅密集地の中に建築家さんの「細長いおうち」を発見!

比護さんのおうちは、下町の風情が残る江東区の住宅密集地にありました。

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こちらが比護さんの事務所兼自宅です。家の奥まで距離がある細長いつくりで、延床面積は45m²の狭小物件。夏はゴーヤの葉が目印です。

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1階は事務所スペースです。壁面にはインパクト抜群の大きな棚があります。まさに設計事務所といった雰囲気。

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玄関の脇には大きな木が植えられています。根が家の外まで伸びているため、水をあげなくてもすくすく成長しているんだとか。

家の奥にはらせん階段があり、そこから2階の居住スペースに上がることができます。

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2階部分は、使い勝手の良さそうなキッチンと、開放感のあるダイニングスペース。

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メッシュ状の建材を床材として使っています。前面の大きな窓だけでなく、天井をガラス張りにしているのが大きな特長です。

現在は、暑さ対策のためスダレで覆われているのですが…、

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何もないときはこのような状態。

「テーブルにスープを置くと、空の雲が映りこむんです」と話す比護さん。夜は、月を家の中から眺めることができるそうです。

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突然現れたのは、階段の途中にあるバスルーム。ベニヤの素地をそのまま活かしながら、耐水性に優れたFRPで完全防水にしています。蛇口や照明などの小道具からも「基地」っぽさが演出されています。

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らせん階段をのぼりきると、屋根裏スペースを利用した寝室が現れます。家の屋根に手が届き、梁の下をくぐって移動する。子供心がくすぐられるスペースです。

天窓として取り付けられているのは、ヨットの甲板で使われるハッチ。これを開けると…?

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なんと屋上に出ることができます!

現在は改修中のため使用できないそうですが、屋根の上にあがれるなんて、まるで猫にでもなった気分です…。

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屋根裏から2階部分を見下ろすとこのような景色に。まるでツリーハウスのようにも見えますね。


「キチ001」と名付けた理由は?

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比護さんには、これまでの建築家さんと同じようにエレクトロラックスの最新コードレス掃除機「エルゴラピード」を事前に使っていただきました。このような狭小住宅で「エルゴラピード」の使い心地は…?

まずは、この家の名前「キチ001」の由来をうかがってみました。

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ーなぜ「キチ001」と名付けたのですか?

もともとは、事務所のことを「拠点」という意味で「キチ」と呼んでいたんです。001と番号をつけたのは、こういう建物をあと100個ぐらいつくりたいという想いからです。

というのも、ここを自分たちの「終の住処」にするつもりはなく、「10年ぐらい住む家」という軽い気持ちでつくっています。以前払っていた家賃x10年ぐらいの予算規模で、楽しいことをしようと考えたんです。

ーこの建物を選んだ理由は?

家のフレーミングがシンプルだったことですね。購入前は天井が貼られていたので、中の梁は見えなかったんですが、土地の幅から考えるとだいたいの想像はできた。もし柱を抜いても、この横幅なら梁を一本通すことで補強して開放的にできる。そういうシンプルな構造が気に入りました。

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ーもともとあった古い家屋をリノベーションしたわけですが、こだわったところってありますか?

意識したのは、“つくりすぎないこと”ですね。がんばりすぎないというか、かっこよくしすぎないこと。そういうデザインされた家ではなく、もっと「素」な感じを出して素直につくろうと思いました。

自邸って、建築家にとってはすごく難しい。どうしても意気込みすぎちゃう。だから10年だけということにすれば、もっと素直に感覚的におもしろいものがつくれる気がしたんです。自分たちの集大成としての自邸というのとはちょっと違いますね。ノリは軽いんです(笑)。


狭い家には小回りができる掃除機がいい

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ー壁面をオープンな棚にしていますが、掃除が大変だったりしませんか? 例えば、ホコリがたまりやすいとか…。

はい、たまります(笑)。うちは猫を飼っているので、ちょっとしたスキマや食器棚にも猫の毛が落ちてたりします。こまめに掃除はしているんですが、いまのコード付き掃除機だと階段を昇り降りするのがけっこう大変なんですよね。

ー新しい「エルゴラピード」の使い心地はどうでしたか?

使いやすかったです。特にハンディになるのが便利ですね。付属のホースを使えば、いまの掃除機が届かないところや、食器棚のホコリなんかも吸い取れますからね。

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この家の居住スペース部分は天井が高くないので、小回りできる掃除機がずっと欲しかったんです。1階はスタッフが掃除機をかけてくれますが、2階以上は面倒ということもあって、ほうきやハケだけで済ませることが多い。でも、この掃除機を使うとホコリや猫の毛がすごくとれるんですよね。

ーコードレスなのに、吸引力もすごいですよね。通常モードで45分は使えます

1回の充電だけで、家の隅々まで掃除できるのはすごいと思いました。ここは狭い割にモノが多いので掃除には時間がかかるんですが、家中を掃除することができました。

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ーこのダイニングもそうですが、まわりをモノに囲まれる感覚って「秘密基地」っぽいですよね。

秘密基地って、自分の好きな物であふれている空間だと思うんです。子どもの頃って、秘密基地に宝物を持ち込んだりしてましたよね。あの感覚です。

戸棚の中に収納するのではなく、目の見える、手の届くところにある。すぐに取り出せて、空間が体の一部になっているような感じで操作ができる。そういう体にフィットする感覚は「動物の巣づくり」に似てる気がします。

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ーコンパクトなほうが「基地」っぽくなる?

だと思います。キッチンの天井高って2mちょっとしかないので、一般的な家よりかなり低いんです。でも、私の背の高さだとこれぐらいがちょうどいい。不思議なことに、幅だけを狭くすると窮屈に感じますが、高さも一緒に下げるとちょうどよく感じたりするんです。


インテリアを「秘密基地」っぽくする方法とは?

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ーその他に、この家が「秘密基地」っぽく見える理由ってなんだと思いますか?

実は、もともとは事務所のことを「キチ」と呼んでいただけで、この家のテーマは「秘密基地」ではないんです。

ーえ、そうなんですか?

完成した家を見た知り合いに「秘密基地っぽいね」と言われて、そのときはじめて「あ、そうかも」って気づいたぐらいです。なので、はじめから「秘密基地」をつくろうとしたわけではないんです。

ーはじめから「秘密基地」がテーマだと思ってました…。

もともとは「素材感をそのまま出そう」というスタンスだったんです。工場や倉庫といった雰囲気が好きなので、ちょっとハードな素材を使ったり、ボルトや釘はそのまま見せています。

基地っぽく見えるのは、素材の表面仕上げをしていないからだと思います。お風呂場もそうですが、壁はベニヤの素材感そのまま残しています。もし壁紙をはったら、秘密基地には見えないと思いますよ。

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鉄骨も塗装ではなく「ドブづけ」というメッキ仕上げのまま。そういう「素」なところが、結果的に秘密基地っぽく見せているんだと思います。

ーこの家って、物も多いし入り組んでる割にすごく居心地がいいんですよね。全然ごちゃついてる感がないというか…。

それは建築の要素が少ないからだと思います。窓枠、ドア枠といったものを省いているし、インテリアの色も限定しています。

狭小空間でモノも多い。そんな空間でいろんな色が入ると、どうしてもゴチャついた印象に見えてしまう。だから、建築部分は木の色と金属のグレーだけ。色物を置くとしたら、植物の葉と同じ「きみどり色」と決めているんです。

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エルゴラピードは、金属っぽい色味のシルバーだったので、空間にスッとなじんだ気がしますね。


町と人をつなぐ「ゴーヤ」というインターフェース

ー外のゴーヤがすごく印象的ですよね。

建物正面の仕上げにどの植物が合うか実験しようと、まずはゴーヤから始めたんです。竣工したのが8年前なので「グリーンカーテン」という言葉もまだなかった気がします。

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ーそれからずっとゴーヤですか?

夏はそうですね。このあたりは下町なので、天気がいい日は近所のおばあちゃんたちが椅子をもってきて井戸端会議をしてるんです。そうすると、みんなでゴーヤの成長を話題にしてたりする。私たちはここの土地の人間じゃないので、近所の人との共通の話題がないんです。

ところがゴーヤを育てていると「これはなんていう植物なの?」「今年の育ちはどう?」「もっと肥料をあげたほうがいいよ」なんて声をかけてくれるようになったんです。

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もともと「建物」と「町」を仕切る緩衝材として「ゴーヤカーテン」を考えていたんですが、結果的には「町」と「人間」をつなげるインタフェースになった。これは予想外の発見でしたね。

ーおもしろいですね。

震災があった年も「今年はやめておこう」なんて思っていたんですが、近所のみなさんが「なんで植えないの?」と声をかけてくれるんです。いまでは、みんながゴーヤの成長を楽しみにしてくれてます。だから、この町では「ゴーヤのお姉さん」と呼ばれています(笑)。

ー「ゴーヤのお姉さん」っていいですね(笑)。

ここが設計事務所とは思ってないでしょうね(笑)。

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ゴーヤを収穫している比護さん

ー本日は、楽しいお話ありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。


家はもっと自由な発想でいい

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屋根をガラス張りにすると見た目以上に大変なことも多いそうで、お客さんにはオススメしていないという比護さん。それでも「空を感じる暮らしは、本当に気持ちがいい」と、子供のように話していたのがとても印象的でした。

自分の体にフィットした家を自由な発想でつくる。自分の好きなモノだけに囲まれながら暮らす。そんな比護さんの生活に「エルゴラピード」が違和感なく溶け込むことができたのは、使いやすさと機能性のバランスを追求した掃除機だからかもしれません。

家は、大人の秘密基地である。

そう考えると、家づくりはもっと楽しくなるかもしれませんよ。


[Electrolux]

取材協力:SUVACO
Photographed by Kenta Terunuma

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